版画の用語集・美術用語 一覧
1. オリジナル版画 定義5原則
1. 版画を制作するという明確な意図のもとに、作家が下絵を描き(省略の場合もある)、作家自身が木版・銅版・石版(リトグラフ)・孔版(シルクスクリーン)等に描刻したもの。〈自刻製版〉
2. 作家自身が手摺りしたり、プレス機で刷った作品。もしくは作家の監督下で職人が指示通りに摺った作品。〈摺刷〉
3. 作家自身もしくは職人による摺刷完了の後、作品を作家自身が確認したもの。
4. 通常、完成作品の左下に限定番号、右下に自筆署名したもの。
5. 所定の限定部数を刷り終えた版には、斜線か×印を入れる、または穴を穿つ等を行い原版を廃棄する。〈レイエ〉
2. 複製版画
油彩・水彩・素描・ドローイングなどを「原画」として、これを写真製版や模写などにより版におこし、リトグラフやシルクスクリーン技法などで印刷したものです。
エスタンプは本来フランス語で「版画」を意味しますが、近年は欧米でも「複製版画」の共通語として使われています。
3. 創作版画
明治30年代末から大正、昭和初期の全盛期を経て、太平洋戦争終戦前まで続いた、自画・自刻・自摺をむねとする版画運動と、その中で制作された版画全体を総称する呼び方です。
「新版画」とともに海外でも一般的になってきた用語です。
4. 新版画
大正初期より、新時代の浮世絵を復興させようとする版元・渡辺庄三郎によって提唱されたものです。
大正4年に橋口五葉の「浴場の女」が発表され、以後美人版画の伊東深水、役者絵版画の山村耕花、名取春仙、風景版画の川瀬巴水をはじめとする数多くの作品が制作されました。
大正期をピークに昭和初期からは次第に衰退していきましたが、アップルの創業者 スティーブ・ジョブズが新版画のコレクターであったことなどから海外で人気が高まり、近年、日本でもその魅力が見直されています。
5. サイン
制作された版画に作家自身が認証して、その証として、通常は画面外右下に記されます。
6. エディション(限定番号・エディションナンバー)
版画の画面左下の余白に記入された番号です。総部数は分母の数になります。
19世紀末に均質な版画が大量に刷れるようになり、コレクターに刷部数に対する保証を与える必要から始まり、フランスの画商 アンブロワーズ・ヴォラールが慣習として定着させました。
7. プルーフ
版画制作の過程で、版の状態、紙、インクの様子などの確認や記録のために作られる刷り(インプレッション)のこと。
アーティスト・プルーフ(A.P)
限定番号以外に作家が保有する一定数の版画のことを指します。慣例としては部数の5~10パーセント内におさめられています。
画面外左下にA.P.(Artists Proofの略)、あるいはフランス語でE.A.(Epreuve dartisteの略)などと記入されます。
H.C.(仏)
フランス語の略語で「商品の外」つまり「非売品」を意味します。版元の「商品見本」として少部数刷られたもので、A.P.と取り扱い上の差はあまりありません。
限定数について一点説明しておかなければならないことがあります。 時々限定数の代わりにアルファベットでEAとかHCと書かれているのを目にするかと思います。
EA、HCとは
EAはフランス語のEpreuve d’artiste(エプルーヴ・ダルティスト)の略で作家保存、 HCはHors Commerce(オル・コメルス):非売品として刷られたもので、 有名画家であった場合は美術館への寄贈や出版に関わってくれた人への贈呈用として作られます。
決まりはありませんが、どちらも限定枚数の5〜10%ほどの数が刷られるのが一般的です。
Epreuve d’artisteの記載。EAと略されることも。
EAもHCも本来、販売を目的とせず作られたものですが、通常の限定入りの作品と質的には差が無いため、エディション入りの版画と同様の価格で流通しています。
販売されるときの価格ですが、作家が保存していたから良いもので数も少なく、希少性もあり、エディション入りの物より高いのではないかと考える方もいるかと思います。
本来、版画は複数芸術でありながら、制作段階で均質性を追求して作られていますから、エディション入りでも、またはEAやHCであっても、作品としては同質です。
そのため価格も同じということになります。